任天堂が業績回復に向け、試練を迎えている。売っても赤字となる携帯ゲーム機「ニンテンドー3DS」の“逆ざや”状態を解消、年末商戦には新型の家庭用ゲーム機「Wii(ウィー) U」も投入を予定し、下期の「V字回復」へ環境は整いつつある。ただ円高、スマートフォン(高機能携帯電話)の台頭という逆風にさらされ、目標達成に課題は山積。シナリオの実現は容易ではない。

ドラクエはシリーズ累計出荷本数が5900万本を超え、平成21年に携帯ゲーム機「ニンテンドーDS」向けに発売された前作は、世界累計出荷本数500万本超とシリーズ最高を記録した。最新作も任天堂の「Wii」向けで、今後、「Wii U」版の発売も予定されている。キラーソフトの存在がゲーム機本体の販売に直結するだけに、ドラクエ最新作に対する任天堂の期待は大きい。

 ただ、最新作はインターネットに接続して遊ぶオンラインゲームで、購入後も毎月利用料がかかる。抵抗感を持つ人も多いとみられ、「100万本いくかどうか」(業界関係者)との冷めた見方も少なくない。

 実際、販売するスクエニは販売本数が減ることを織り込み済みだ。ドラクエXの配信サービスは約10年間続ける予定で、販売が伸びなくてもその間の利用料でカバーする戦略を採るが、任天堂にとっては「ドラクエXはインパクト不足」(アナリスト)との厳しい見方が根強い。

 売上高が最高で1兆8千億円を超えた任天堂は、人的規模が拡大し、固定費も増大した。固定費を吸収するためにも売上高の拡大は不可欠だ。だが、世界的なゲーム市場の縮小にも歯止めがかからない。

 市場の縮小はソフト開発の活力を奪う。仏ゲームソフト大手のUBIソフトのように、1作当たりに数十億円かけ、リアルな映像を売りにヒット作を生み出しているところはあるが、そんな会社はごく一部だ。

 「盛り上がりのなさに失望した」。今年6月、米国のロサンゼルスで開かれた世界最大のゲーム見本市「E3」の会場では、目玉となる新作ソフトがなく、訪れたゲームファンからため息がもれた。

 1ドル=80円を超える円高も重くのしかかる。任天堂の海外売上高比率は61%と高く、円高の影響を受けやすい。平成24年4〜6月期には172億円の最終赤字を計上、2期連続の最終赤字となったが、為替差損は211億円に達し、収益構造の抜本的改革が急務だ。

 任天堂は、WiiやDSなどのヒットで、ほとんどゲームをしなかった「ライトユーザー」を取り込み、ゲーム人口の拡大に成功した。しかし、スマホの普及がゲーム市場の景色を劇的に変えた。

 ライトユーザー向けの簡単なゲームは模倣も容易で、スマホなら無料で遊べるものも多い。1万数千円もする専用機に数千円のソフトが必要な従来のゲームが、暇つぶし感覚でゲームを楽しみたいライトユーザーを引きつけるのは難しい。あるアナリストは「(専用機にこだわる)任天堂は戦略を見誤っている」と指摘する。

 市場が縮小してもソフト会社は生き残る道がある。パッケージゲームの開発を効率化し、開発期間が短く、収益性が高いソーシャルゲームに経営資源を振り向ければいい。しかし、ゲーム機が主力の任天堂は、成長のためにはゲーム人口を拡大し続けるしかない。

 任天堂は同じゲーム機大手のソニー・コンピュータエンタテインメント、マイクロソフトとは違い、独自の強みを持つ。世界的に人気がある「マリオ」や「ポケットモンスター」など人気ソフトを多数抱えていることだ。7月28日に発売された3DS用ソフト「New スーパーマリオブラザーズ2」は2日間の国内販売本数が43万本(エンターブレイン調べ)に達し、改めてマリオ人気を裏付ける結果となった。

 こうしたコンテンツ力を生かし、ゲーム機との相乗効果をどう引き出すか。岩田聡社長は「専用機が必要とされるために、独自の楽しさを供給したい」と話すが、任天堂復活の成否はまさにその一点にかかっている。

2012.8.12 産経新聞