2013.12.4 03:05 [産経抄]

元タイ大使の岡崎久彦氏は、長く防衛庁の情報担当局長や外務省の情報調査局長をつとめた。ものものしい肩書で、国家の最高機密を全て握っていたのかと思ってしまう。だが実際には「本当の機密はひとつも教えてもらっていない」という。

▼岡崎氏自身が『明日への選択』12月号のインタビューで明かしていることだ。役所の文書にはしばしば、「マル秘」や「極秘」の判子を押した。だがどれも漏らしたところで犯罪にはならない情報だった。特定秘密保護法ができても、誰も指定はしない類いだったという。

▼では本当の機密はどんなものかといえば、例えばレーダーの性能であり、軍艦の甲板の厚さなどである。漏れれば国の安全にかかわる情報だ。しかしそれは外務省の局長でも手が届かない。一般の国民や新聞記者がつい入手し、漏らしてしまうような代物ではない。

▼ただ岡崎氏によれば、そうした本当の機密に当たる技術は米国が優れている。それが漏洩(ろうえい)すれば、米国の国家機密を漏らすことになり、日米の安全保障の対話ができなくなる。だから秘密保護法が必要なのだ。どこかストンと腑(ふ)に落ちるような気がした。

▼だが民主党や一部のマスコミの方には、ストンと落ちないらしい。徹底して特定秘密保護法案を廃案に追い込む考えのようだ。法案の中身に関係のない石破茂自民党幹事長の「テロ発言」をも足を引っ張る材料にする。一方で廃案にすることで失われる国益にはお構いなしだ。

▼スケールが違うとはいえ昭和35年の安保騒動を思い出す。大半の人は日米安保条約改定の意味もわからないまま「反対」を叫んだ。野党も「極東の範囲」など不毛な議論に明け暮れる。50年以上たちその愚を繰り返すというのだろうか。


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