2013.11.18 03:14 [産経抄]

 昨年、中国籍の作家として初のノーベル文学賞に輝いた莫言さんの代表作のひとつが、『蛙鳴(あめい)』(中央公論新社)だ。1979年から中国で続いてきた「一人っ子」政策に翻弄される、女性産科医の半生を描いている。

 ▼訳者の吉田富夫さんによると、「中国で初めてこの問題に正面から切り込んだ」という。莫言さん自身、人民解放軍に籍を置いていたとき、身ごもっていた妻に第2子を産ませなかった経験を持つ。

 ▼莫言さんを含めて、多くの人々の心に深い傷を残してきた政策を、中国共産党が転換の方針を示した。今後は、夫婦のどちらか一方が一人っ子の場合、2人目の子供を産めるようになる。背景にあるのは、急速に進んでいる高齢化だ。このまま政策を維持すれば、2030年には高齢者が、総人口の4分の1を超えるとの試算がある。労働力の不足も深刻になってきた。

 ▼そもそも中国が一人っ子政策を導入したのは、毛沢東の出産奨励政策によって人口が増えすぎたからだ。食糧危機を招き、経済成長が困難になった。評論家の石平さんは、毛沢東の言葉を盛んに引用し、言論統制を強めている習近平国家主席の、「毛沢東気取り」を指摘している。今回の転換も、そのひとつかもしれない。

 ▼いずれにせよ、日本、いや世界全体にとって人ごとではない。中国の人口は、環境、資源、エネルギーなど、あらゆる問題に関わってくる。上は30代半ばに達し始めた、一人っ子たちの今後の動向も気になるところだ。

 ▼幼い頃からわがままいっぱいに育てられ、「小皇帝」と呼ばれた彼らが社会を動かすようになった時、中国の振る舞いは、より粗暴になるのではないか。一人っ子政策の矛盾が噴き出すのは、むしろこれからである。

http://sankei.jp.msn.com/world/news/131118/chn13111803150002-n1.htm


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