2013.10.27 03:06 [産経抄]

 20年ほど前、マスコミ各社の訪中団で中国に行くとき、訪問都市に蘇州が含まれると聞き胸が高鳴った。古刹(こさつ)・寒山寺や、楓橋(ふうきょう)がある街だ。「夜半の鐘声 客船に到る」という張継の詩「楓橋夜泊」で知られる。一度行きたいと思っていたからだ。

 ▼ところがその蘇州で真っ先に案内されたのは郊外に開発中の工業団地だった。この開発の持つ意味や、将来への期待について延々とレクチャーを受ける。歴史がいっぱいに詰まったこの古い街の風情を楽しめたのは、それが終わってわずかの時間だけだった。

 ▼ちょうど経済成長が緒についたころだった。数都市を訪ねたが、どこでも同じように発展の可能性ばかり聞かされた。そして異口同音に「日本はもっと中国に投資してほしい」と言う。「投資しないと損しますよ」と、まるで「脅迫」するように呼びかける広報担当者もいた。

 ▼日本へ帰って経済担当の同僚にその話をしたが、懐疑的な答えが返ってきた。「権力闘争が激しいし、政治が経済を大きく動かすから日本企業は二の足を踏むよ」。天安門事件からまだ5年もたっていなかったから「やっぱり」とうなずくしかなかった。

 ▼それは「杞憂(きゆう)」では終わらなかった。その後経済成長の甘い蜜に誘われるように、多くの企業が中国に進出した。だが「官製」ともいえる反日運動などで、撤退を余儀なくされる企業が増えた。先日は食品の明治が中国での粉ミルク販売を休止するというニュースもあった。

 ▼それでも「無事」撤退できる企業はましだ。引き揚げるに当たって当局から圧力をかけられ、苦しむケースは数多いらしい。「アリ地獄」のようにさえ見える。民主化とほど遠い一党独裁の国と付き合うには、よほどの覚悟が必要である。

http://sankei.jp.msn.com/world/news/131027/chn13102703070000-n1.htm


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