2013.9.11 03:29[産経抄]

 日本が戦争に負けた昭和20年8月15日、中国国民政府の蒋介石はラジオで国民や兵士に呼びかけた。「怨を以(もっ)て怨に報いてはならない」。中国に残る日本軍への勝手な報復を禁じたのだ。この言葉に感激した当時の日本人は多かったという。

 ▼その蒋介石のライバルで中国共産党を率いた毛沢東は昭和47年、国交回復のため北京を訪れた田中角栄首相らに、こう語った。「もうケンカは終わりましたか」。田中も日本国民も「大人(たいじん)」然としたその言葉にうたれた。そして中国ファンや毛沢東ファンが増えていった。

 ▼自らを「大人」としてふるまい、相手を圧倒したり懐柔したりする。中国一流の外交術である。蒋介石は日本人を味方につけることで、戦後台頭する共産党を抑えようとした。毛沢東にしても、日本側の心を取り込んで交渉を有利に運ぼうとしたことは間違いない。

 ▼東京が五輪開催都市に選ばれたとき、中国がこの「大人」作戦に出るのではと、内心恐れた。習近平氏が安倍晋三首相に祝電を打ち「大いに協力したい」と語る。尖閣近辺の領海侵犯も当面控えでもすれば、日本人の嫌中感も和らぎ、手玉に取られると思ったからだ。

 ▼実際には正反対だった。祝電どころか、会見した外務省報道官は「日本側は歴史と現実を正視するように」と、相変わらずギスギスした言葉を投げかけた。一昨日は尖閣諸島近くに無人機を飛ばし、昨日は公船が領海を侵犯、日本への挑発行為を繰り返す。

 ▼招致成功で安倍首相への支持が高まるのが怖いそうだ。だから極力無視しようということらしい。だがそれでは「隣国の五輪開催さえ祝福できない国」との印象を世界中に与える。日本人にとっても「大人」気取りに惑わされずにすんでよかった。

http://sankei.jp.msn.com/politics/news/130911/plc13091103290004-n1.htm



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