2013.8.29 03:21 [産経抄]

 平成15年1月、川崎市の古書店で万引した15歳の少年が逃走中、電車にはねられて死亡する事故があった。事故直後から、警察に通報した古書店の店主には、「人殺し」などと非難の電話が相次いだ。

 ▼もっとも、作家の井上ひさしさんに言わせれば、「万引きがじつは緩慢な殺人行為であることを知らない」人たちだ。井上さんは中学3年のとき、1度だけ万引をした事実を、エッセーで告白している。上着の下に隠した英和辞典は、店番のおばあさんにすぐ見つかった。万引の被害が、書店にとってどれほど深刻なのか、おばあさんの説明で「骨身に沁(し)みた」という。

 ▼コンビニ店のアイスクリームの冷凍ケースに入る。ピザ生地で顔面を覆う。地下鉄の線路に下りる。非常識な写真をインターネット上で公開した若者たちの身元は、たちまち特定されてしまった。なかには、損害賠償を請求されるケースも出てきそうだ。当然だろう。

 ▼飲食店の場合は、営業休止にとどまらず、閉店に追い込まれた店もある。生活の糧を突然失い、途方にくれているオーナーもいるはずだ。万引同様に、「緩慢な殺人行為」といえるかもしれない。

 ▼おととい、全国学力テストの結果が公表された。科目に含まれなかった英語に関しては、接続詞の「but(しかし)」はうまく使えるが、「if(もし)」は苦手という分析結果もある。軽い気持ちの悪ふざけが、世間にどれほど大きな迷惑をかけるのか。人生経験の浅い若者に、「想像力」を期待するのは難しい。

 ▼「命の重さ」が叫ばれながら、いじめが原因となる自殺が後を絶たないのも、同じ理由だ。井上少年の目を覚まさせたおばあさんのように、大人が「骨身に沁みる」説教をするしかない。

http://sankei.jp.msn.com/affairs/news/130829/crm13082903220001-n1.htm



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